空
隣に寝ているはずの恋人を抱きしめようと、腕を伸ばす。
だけどそれは目当てのものに触れず、隣にあった温もりも、今は感じない。
「ん・・・優亜?」
うっすらと目を開けて、恋人の名前を呟く。
二人が寝ても余るほどのベッドには優亜の姿がない。
ばっ、と身体を起こせば、寝室の窓際に座っている彼女の姿が見えて、ホッとする。
「あ、春都くん。おはよう」
「うん、おはよ。なにしてんの?」
「空、見てたの」
俺に向いていた視線が、また外に移った。優亜の隣に並んで、一緒に空を見上げる。
「あー…雨降ってるじゃん」
「ふふっ、春都くん、雨、嫌いだもんね」
「だって、うっとうしいじゃん?優亜は雨、好きだっけ?」
「好きだよ、雨の音を聴いてると、なんか安心するの」
ふわり、と笑った彼女を、思わず抱きしめた。
「はるとくん…?」
「俺と、出かけられなくなっても、雨が好き?」
「んー…。好き、だよ。春都くんと出かけられないのは残念だけど、
そのかわり、春都くんとふたりだけの世界でいられるから…」
顔を紅くしながら言う彼女を、さらにぎゅっと抱きしめた。
「…恥ずかしいやつ…」
「なっ//そんなこと、分かってるよっ//」
「だけど、可愛い」
「ちょ、も、やめてよ//恥ずかしいっ//」
優亜は真っ赤になった顔を両手で隠す。だけど、赤くなってる耳までは隠しきれてない。
「雨に感謝しなきゃなぁ…」
「へ?」
「さてと、優亜の言うふたりだけの世界を楽しもうか?」
「へ、あ、あの、春都くん…?」
「あー腹減った。優亜、ご飯作ってくれない?」
「え、あ、う、うんっ!」
抱きしめていた腕から解放すると、優亜はすぐにキッチンに向かっていった。
一人になった寝室で、もう一度空を見上げる。
「お前のこと、少しは好きになれそうだわ」
ぱらぱらと絶えず雫を落とし続ける空に向かってそう呟き、寝室を後にした。
ーおわりー
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